マズイ食材も蜜の味?!身の「下」を案じる回答芸から見える悩みの小ささ

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身の「上」相談ではなく「下」というタイトルが気になって、手に取りました。

『また身の下相談にお答えします』(上野千鶴子/朝日文庫)は、朝日新聞の「悩みのるつぼ」欄が書籍化されたものです。

「夫がイヤ」「子無し人生へのバッシング」「老後どう生きるか」などの相談テーマに対して、著者がスパイスの効いた言葉で一刀両断します。

「人それぞれだよね」という答えに集約してしまいがちな悩み相談のような話題に対して、私はあまり関心を持っていないのですが、フェミニストとして知られる著名な社会学者の上野千鶴子がどう回答するかに興味がありました。

人生相談で相談者の考え方に異を唱えることはそう多くはないでしょう。問題の解決よりも、話を聞くことの方が重要だからです。しかし、この本で展開されている回答はちょっと違います。

例えば、保健室に通う生徒を「やっかいな子」と相談する中学校教師に対して

もしわたしに子どもがいたら、あなたのような教師がいる学校には預けたくありません。(中略)子どもは自分の問題を訴えるのに「ボキャ貧」ですから、カラダの不調で訴えます。(中略)「体の不調」を文字どおり取るなんて、人間理解の初歩にも至りません。

と書いています。また、夫が自分に関心のないことがさみしいと訴える妻に対しては

そもそもひとりの異性から、生活の安心、安定にとどまらず、関心や愛情、知的刺激から性的満足まで・・・・・・何もかも調達できると思う方が間違いです。(中略)夫から調達できないものはよそに求めましょう。家庭を壊す気持ちがなければほどほどに。女友達も承認を供給してくれます。

実にリーズナブルな回答ではないでしょうか。「あとがき」で書いているように、通常の人生相談の回答は、人生の酸いも甘いもかぎ分けた経験豊富な人が回答するケースが多いのでしょう。

しかし、上野氏は結婚したことも、子どもを生んだこともない、戸籍がきれいなおひとりさま。相談者は相談をしているのですから、回答者の身の上には興味がないというのが本音だと思います。けれど、実際には多くの回答者が自分の人生経験をベースに「私の場合は・・・・・・」と答えてしまいます。

相談者の相談から、いつの間にか回答者の話にすり替わってしまっている。個別の例が引き合いに出されるので、回答に妥当性があるかどうかも分かりません。一方、社会学者である上野氏には豊富なデータがあるので、その悩みが一般的なものなのか、レアケースなのかの判断ができるのです。

本書では、その点をわきまえて客観的な回答されているのですが、文面には上野氏の人生観や価値観が色濃く反映されています。相手に配慮すべき点は配慮しつつも、語り口は非常に明快で、変にこびを売らない回答には潔さも感じます。

読み進める中ですごいと思ったのは、相談の文面を本当によく読んでいるということ。年齢や家族構成、文章表現の一つ一つをとらえて、質問者の置かれた状況を想像して回答しています。たいていの人は、おそらく見逃してしまうであろう文言から、相談者の知的レベルまで推測しているのですから。

つまらない相談もおもしろくしてしまう、回答芸も光ります。どんな球が来てもヒットを打つ打者のようです。また、掲載先の朝日新聞のコラム「悩みのるつぼ」のネーミングについても「ふざけている」と、上野節が炸裂。ふざけているといえば、本書のタイトルです。身の上とは、その人に関わることや境遇・運命のことですが、どんな悩みも自分が思うほど大変なことじゃないよ、というメッセージかもしれません。

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